家と庭のイメージ

 家と庭、ニワトリとタマゴではありませんがこの二つの関係はどちらが先に生まれそして従属されるのかを定めるの難しく、特に日本人にとってはそのユニークな自然観も相まって「敷地の中の住宅以外の部分が庭」と決めつけるのはあまりに拙速です。大きな壁に小さな窓、明治以降典型的な欧米の建築様式が広まり一般住宅にも浸透しました。では果たして日本の住宅は完全に欧米化してしまったのしょうか?さすがに土足で家に上がる人もあまりいないでしょう。シャワーを浴びるだけのことを入浴とは言いません。そして家の構成としてシブトく消えず、寧ろ愛され、日本人の住宅観が顕著に表われているものの一つとしてサッシがあります。

 それではサッシと引きドアの共通点はどこにあるのでしょうか?まず二つとも建具であり、外と内の境界に位置し、故に外と内をつなぐ役割を持ちます。そしてドアが中から外へ開くようにサッシも家の中から庭やベランダといった外へ向かう方向性があります。一見当たり前に思えるこの内から外への方向性は、実は日本の建物の大きな特徴です。この特徴は、外界の危険に怯えながら竪穴式住居に暮らしていた日本人が外敵から身を守る術を覚え、文明を手に入れた瞬間から開花することになりました。


 平安時代の寝殿造りを見てみましょう。源氏物語の絵巻物に描かれているあの巨大な平屋の複合体に壁はありません。柱と床と屋根で構成されるあの建物は、まず間取りという概念も疎く、状況によって衝立(ついたて)や御簾(すだれ)によって一時的に仕切られます。そして外と内とは蔀戸(しとみど)と呼ばれる木製の雨戸のようなもので主に夜の間に閉められるだけです。その理由として、照明がないことや、夏の蒸し暑さをしのぐためということもあるとは思います。ですが単純にそのような機能面だけで語られるものではなく、これには日本人の自然観も大きく影響しているはずです。例えば万葉集の中に”家”を意味する単語の入った歌を探すと、それらのほとんどに木や草花を表す単語も含まれることに気付きます。山の中のものよりも、梅や萩といった身近な花が多く、家の中や軒の下から覗くことができるすぐそばの自然を愛でる嗜好が強いことが分かります。もし部屋と外の間に立ちはだかる壁があったならばこの日本人の心を強く打つ風景は存在せず、家の中にいながら自然と接触する機会を奪ってしまうような外と内との断絶はその後も嫌われ続けます。時代を追って寺院の方丈も然り、城内に設けられる書院に然り、そして現代のリビングをとっても必ず壁の一面は外に向かって開け放たれているのです。例外的な建築として茶室がありますが、茶室は暮らしを営む場所ではありません。平和な時代になり、茶室のその洗練されたスタイルに焦点が当てられがちですが、戦国の時代にあっては参謀的な目的を持っていました。また閉じた空間が開放的な佇まいをより強調するという利休の逆説的な美意識が働いているようにも見えます。


 ここで説明したかったのは歴史によって裏付けられた日本人の住宅と庭、つまり内と外との関連性です。いくら西洋の文化が流れ込んできて住宅に影響を与え、生活スタイルさえ欧米化を遂げつつあっても、生活を営む場であるハコとしての家が実は根本的なところで1000年以上も大きく変わることを拒み、常に内と外の”つながり”や連続性を求めているということです。そして残念なことは、この家と庭の密接な関係が現代では特にあまり意識されず、加えて住宅産業という巨大なマーケットの中で意識されないよう意図的に”家ありき、それから庭”というものが常識になりつつある点です。最近は”庭”という言葉も使わずに”外構”と一括りにされてしまうこともありますがそれでは寂し過ぎます。猫の額程の土地であっても、古来から日本人が大切にしてきた四季を感じさせる庭をつくることは難しくはありません。ただし家が建てられ、ブロックとフェンスで囲われた後では自由度が全く違います。それでは家と庭を上手に協調させるにはどうすれば良いのでしょうか。次ではまず「家を建てる」ことについて考えていきたいと思います。

Made on a Mac

 サッシは必ずクリアガラスで出来ており、高さは2メートル、幅は壁の2/3以上と決まっています。マンションに至ってはほぼ壁全面がサッシの物件の方があたかも高級な物件であるかのように扱われているようです。例えばハリウッドの映画に出てくる部屋に”サッシ的”な建具は見当たりません。基本的に四方は壁で小さな窓が一つ、残された壁面は妙に大きな洋書で埋め尽くされた本棚やシェルフ、あとは家族の写真です。あれで閉塞感がないのは純粋に部屋自体が大きいこともありますが、侵略と略奪の歴史を通してDNAに刷り込まれた堅牢な住居に対する憧れ、”安らかさ”に大きな価値観が置かれているからでしょう。またちょっとしたトリビアとして、欧米のドアは押すことで開くのに対し、日本のドアは基本的に引いて開けます。ドアの後ろにバリケードを築くことによって敵の侵入に対して抵抗ができる押しドア”に対して金具を切断すればドアがパタンと外に倒れてしまう”引きドア”はマヌケにさえ見えるかもしれません。ですがドア一つをとっても”カタチ”だけを導入しつつ住宅観は変えない日本人の分かり易い例の一つです。